海外のFlashゲーム事情

海外のFlashゲーム事情についてまとめている日本語の情報がほとんど無いようなので、一度まとめてみようかと思います。

注意:ここに書いたことは個人的に調べた事実に基づいています。中には勘違いなどもあるかも知れません。鵜呑みにせずできるだけご自身で調べてみてください。また、この内容からなんらかの不利益があってもnjfは一切関知しません。またコメントがあってもそれに返信することはありません。

はじめに

海外のFlashゲームサイトでゲームを遊んだことのある人なら誰でも「日本に比べてどうしてこんなに多くの、しかもクォリティの高いゲームあるのだろう」と感じることだと思いますが、その答えは非常に簡単です。開発者が得られるお金の額が違うからです。ここでちょっと簡単にどの程度違うかを考えてみましょう。

まず国内で個人の開発者がFlashゲームを作ってそれでお金を稼ぐとなると、普通は自分のサイトで公開してゲームのページに広告を入れることになります。仮に月50万アクセスぐらいとします。国内だと大ヒットしてもたぶんこんな物でしょう。すると広告費は月10~20万円ぐらいになると思われます。ひとまず15万円としてそれが一年間続いたとすると、一年間で、

15万円×12=180万円

となります。
実際には国内でたった一つのゲームが月50万アクセスを達成してそれが一年間続くなんてなかなか無いと思われます。国内のゲームサイト「モゲラ」の上位のゲームも1年でようやく50万アクセス弱です。そして、サーバの費用やホームページの管理などもしないといけないので、実際の利益はこれよりずっと低くなります。おそらく現実には1ゲーム当たりならこれの半分もあれば良い方でしょう。さほどヒットしていないゲームの場合なら、この10分の1以下です。

これが海外ならどうなるかというと、まず最初に「Primary Sponsorship」(詳細は後で説明します)というのがあります。大ヒット間違いなしというようなゲームだとこの権利が数万ドルで取引されます。仮にこれを2万ドルとしておきましょう。次にゲーム内広告(詳細は後)があります。ゲーム内広告はPVあたりの単価はあまりたいしたことはありませんが、英語圏および英語を理解できるインターネットユーザは日本語のそれに比べて数倍はいます。なのでPVが国内で公開したときよりも桁違いに多いです。また、Kongregateのようにゲームページの広告収入を制作者に還元してくれるサイトもあります。それらもろもろあわせると収入は月数千ドルにはなるでしょう。低めに2千ドルとしておきます。すると、一年間で

2万ドル+2千ドル×12=4万4千ドル=396万円(1ドル90円とした場合)

公開しているサーバはスポンサーの物なのでタダです。ホームページの管理もいりません。また同じゲームをカスタマイズして他にサイトに売ったり、iPhoneアプリ化したりする権利を売ったりも出来るのでこれ以上の利益を得る可能性もあります。もし自分でサイトを運営していた場合は、管理の手間はいりますが、かわりにさらにそのサイトからの収入も得られます。

もちろんこの計算はいい加減で、あまり当てにはなりません。特に広告収入は流動的なのでこうはならないでしょう。またこんな大ヒットするゲームなんてそうそう作れません。ちなみに「Primary Sponsorship」の平均はせいぜい2千ドルぐらいと言われています。そもそもスポンサーがつかないゲームもあるので実際にはもっと低いでしょう。なので数万ドルのスポンサーを得るというのは可能ですが非常に難しい事です。それでも海外には「Primary Sponsorship」があるせいで、その時点で日本の開発者に比べて収入の面でかなり有利になっています。さらにゲーム内広告のおかげで自分のサイトでゲームを公開しなくても収入が得られ、サイトの管理をせずにすみ、ゲーム開発に専念することが出来ます。

高い収入が得られれば人を雇ってチームによる品質が高く能率の良い開発ができますし、一山当てようと多くの開発者がゲームを公開してきます。

それが国内と海外のFlashゲームの質と量の差となっているわけです。

次はどうして海外ではこのようになってきたのか、また国内ではそうでないのかを時系列にそって説明していきたいと思います。

黎明(~2007)

Flashゲームとそれを掲載するゲームサイトが最初に作られた頃、基本的に開発者はある特定のゲームサイトにゲームを提供して、その対価を得るという方法が主流でした。開発者はそのゲームを他のサイトに公開することは出来ず、ゲームサイト、つまりスポンサーの方も通常他のサイトにそのゲームをさらに提供することもありません。また多くの場合、開発者はスポンサーからの要求に応えてロゴを入れたりそのサイトのランキングに対応したりしなければなりませんでした。他にもソースコードの提供、続編や派生作品の権利、著作権などの提供を求められる場合もあります。このスポンサーシップは現在ではExclusive(排他的) Sponsorship、またはTraditional(伝統的) sponsorshipと呼ばれていおり、海外では今はあまり使われていません。(日本ではまだ現役のようですけど)

このスポンサーシップは非常にスポンサー側有利な条件となっています。それゆえ開発者はいろいろな制限を受けることになり、好きなゲームを作るのが難しく、スポンサーに気に入られるような物を作らざるを得なくなります。おもしろいゲームを作るなら何が出来るかという事に精通した開発者側が自由に物作りを行った方が良いわけですが、それが制限されては当然ゲームの品質も落ちていきますし、開発者のモチベーションもさがります。
また、開発者がたとえばゲームの続編をより条件の良いサイトに掲載したくても、契約上複数のスポンサーと交渉するのも難しいという問題もあります。
ソースコードや著作権の提供が開発者の権利を大幅に損なっていることも言うまでもありません。
さらにこのスポンサーシップは他のサイトにはゲームを公開しないで、自分のサイトにアクセスを集めるというのが一つの重要な点です。しかし実際にはFlashゲームを勝手に自分のサイトに転載する人が後を絶たず、そのようなビジネスモデルは成立しがたいという問題も発生しました。

ただし、開発者側にもこのスポンサーシップに利点はあります。それはいわばサイトの専属の開発者のようになるわけですから、定期的に仕事が入り、また提示される額もそれなりと言う場合が多く、ある程度収入が安定すると言うことです。

しかし、結局廃れてしまったということは、開発者の「好きに物が作りたい」という思いが強かったのかもしれません。

転換期(2007~2009)

「Exclusive Sponsorship」が主流であるという状況は2007年頃から劇的に変化します。この変化を引き起こした要因は次の3つにあると考えられます。

1.ゲーム内広告の登場
2.Flashゲーム自体の質の向上
3.Primary Sponsorshipの登場

2007年頃からゲーム内広告を提供する会社が現れるようになりました。海外のゲームをプレイしていると、最初に広告が出ますが、あれのことです。有名な広告ネットワーク会社としてmochimediaやCPMStar、googleなどがあります。すると開発者はゲームから直接、つまり特定のサイトにゲームを提供しなくても収入を得られるようになったわけです。また、ゲームが勝手に転載されるという問題も、むしろどんどん転載してもらった方が広告収入が得られるので開発者にとっては利点と変わりました。

しかし、かといってそれで十分な採算をとれるのか、という問題があります。単体のゲームではなかなかアクセスを集めにくいのではないかと。しかし、「Desktop Tower Defense」というような1つのゲームでとてつもないPVを稼ぐモンスターゲームが登場するに至って、その疑いは完全に払拭されました。しかもそのようなゲームが1つではなくいくつも公開されていきました。開発者はもはや1つのサイトのためにゲームを作り提供する必要はなくなりました。誰かの顔色をうかがうことなく、自由にゲームを作り、それを世に問えばよくなったのです。

すると今度はゲームサイト運営者達に問題が持ち上がります。もはや古い形のスポンサーシップにより開発者を縛り付けられなくなり、彼らがどのサイトでもゲームを公開できるようになると、すべてのサイトが同じようなコンテンツとなり、差別化が難しくなってしまいます。そこで現れたのが「Primary Sponsorship」という概念です。
海外のゲームをプレイすると、最初にどこかのゲームサイトのロゴが入り、さらにゲーム内に配置されている「More Games」などというボタンを押すとそのゲームサイトのページが開くと言う事に気づくと思います。あの機能を開発者に入れてもらう権利が「Primary Sponsorship」です。
「Primary Sponsorship」の目的は二つあります。ひとつはブランディングです。ゲーム内でサイトのロゴを表示することによって、プレイヤーに自分のサイトを印象づけることが出来ます。
もう一つはゲーム内リンクによるトラフィックです。人気Flashゲームは1つでも膨大なPVを稼ぎます。そのゲーム内に配置されているリンクからも当然かなりの数のトラフィックがゲームサイトに導かれるようになります。通常「Primary Sponsorship」では最初の数日を除いて公開できるサイトを制限しないため、開発者がアップロードしたさまざまなサイトからのアクセスが期待できます。その上、そのリンクで来た人はゲームを遊んでいたゲーム好きの人なので、当然リンク先のゲームにも興味を持つことが期待できます。しかもそのゲームが公開されている限り、そこからのアクセスは半永久的に続くのです。下手なネット広告よりも遙かに効果的です。「flashgamelicense.com」といったオークション形式でゲームを競りに掛けるサイトも現れ、人気ゲームの「Primary Sponsorship」の権利は高騰し、数万ドルといった値段がつくようになりました。

そしてゲーム開発者はさらなる収入源を得ることになり、一攫千金を夢見てたくさんのゲームが作られるようになりました。

一方でこのシステムはゲームサイト管理者にとっても大きな利点があります。それは従来の「Exclusive Sponsorship」に比べると広告収入などを開発者が別に得られるので「Primary Sponsorship」はそれほど高価ではなく、またすでに公開されているゲームでも自分のサイトに無料でホスト出来るため、ゲームサイトを安く簡単に運営できるようになったことです。そして世界中でたくさんのゲームサイトが作られるようになりました。

現在、そして将来(2010~)

今のところ海外のFlashゲームのスポンサーシップのシステムは見事にwin-winの関係を築いているように見えます。もちろん、その影には人気を集められずほとんど顧みられることのないたくさんのゲーム、人を集められなかったゲームサイト、などもありますが、インターネット自体が成長しているのでゼロサムゲームにならず、まだまだ活気が失われることはないように思えます。ただし、開発者の競争が激しくなり、どんどんゲームの品質が上がっているので個人では参入しにくくなってくるかも知れません。
また、ソーシャルゲームやMMOといったタイプのゲームもよく見かけるようなり、どちらかというと1つのゲームで長く遊んでもらうというものが増えてきています。
他にスポンサーシップや広告だけではなく、ゲーム内の少額課金により利益を得ようという動きも目立ってくるようになりました。課金するのですから、当然ある程度の品質が要求されます。

全体として今後は今までよりも量より質、という傾向が強くなっていくのではないかと思われます。
それに伴い、ついて行けなくなって淘汰されていくサイトや開発者も多くなっていくかも知れません。
とはいえ、今しばらくは海外のFlashゲームブームは続くでしょう。

さらに今後はスマートフォンといったモバイルにもどんどんゲームが移植、または新規に開発されていくことでしょう。そうなったとき、このスポンサーシップのシステムがモバイルで適用されていくのか、それとも新しいシステムが現れるのか、なかなか興味深いところです。

国内との差

最後に翻って国内に目を向けてみます。現在、国内には海外のFlashゲームのような活気は残念ながら無いようです。もちろん、すばらしいゲームを作っている開発者はたくさんいますが、ビジネスとしてそれを行って採算がとれているという人はごくごく少数です。公開されるゲームの数も少なく、公開できるサイトも非常に少ないです。

その最大の原因は、もちろん海外のようなシステムが存在しないせいです。まずゲーム内広告を提供している会社が日本にはありません。ゲーム制作者は広告から利益を得ようとすると、ゲーム自体を売るか、それともサイトを作ってそこに広告を入れるしかありません。実際には作ったゲームを買ってくれる人などそうそういませんので、依頼を受けてつくる事になるでしょう。依頼する人は大抵が広告代理店などの人で、Flashゲームの事も技術的な事もほとんど知らず、広告の一部と認識している人が大半です。もぐらたたきゲームを着せ替えただけみたいなゲームを依頼されることもしばしばでしょう。そもそも優れたFlashゲームが多くのトラフィックを生む、という事すら知らないのですから、依頼自体少ないかも知れません。自分のサイトで公開したところで広告収入もたかが知れています。お金がなければ時間のかかるゲーム制作など続けていられません。国内で好きなゲームを制作して採算をとると言うのは、非常に難しいのです。

結果として、国内で作られるオリジナルのFlashゲームの数は非常に少なくなったのです。

どうして国内では海外のようなシステムが構築されないのか、については長くなるのでここでは述べません。そのうち別の記事として書くことがあるかも知れません。(こちらに書きました

(ただし、これはPC上でのFlashゲームのことです。携帯の場合はまた少し状況が違うかも知れません。また、実績がある人の場合は、自らスポンサーに提案して好きなゲームを作れる場合もあります。とはいえ、完全に自由に作れると言うことは少ないでしょう)

最後に

もし、国内のFlashゲーム市場が海外に少しでも追いつきたいなら、おそらく次のようなことが必要かな、というのを書いて終わりにします。

・日本語に対応したゲーム内広告
 英語圏に比べてPVが少ないので、あまり収入にはならないかも知れませんが、これがあれば開発者のプラスになるのは間違いないです。
・Flashゲームの投稿サイト
 海外にはたくさんのFlashゲームの投稿サイトが存在し、サイトによっては開発者へ広告収入などを還元してくれるサイトもあります。国内にはそもそも投稿可能なサイトがごく少数しかありません。また海外サイトにはごく普通にある、ゲームを評価するようなシステムも存在しません。
・Flashゲームのコミュニティ
 NewGrounds,Kongregate,mochimedia,FlashGameLicence.comなど、海外のFlashゲーム関連サイトには大規模なFlashゲーム制作者のコミュニティサイトが併設され、そこでいろいろな情報交換が日夜行われています。これが海外のFlashゲーム制作の技術力を下支えしています。日本にはそのようなサイトはありません。
・簡便な送金システム
 開発者同士や、スポンサーからの送金などがスムーズに行われるように、ネット上で簡単に送金できるシステムが必要です。去年あたりからpaypalが日本でもだいぶ使いやすくなりましたが、まだまだ使っている人は少ないです。またescrowのような仲介サービスも国内では見当たりません。
・広告や課金などに対する理解
 どういうわけか国内には広告や課金システムを毛嫌いする人が海外よりも多いように見えます。それが開発者の収入にとってマイナスになっているのは間違いありません。

とはいえ、どれも大変なので国内にはもはや期待せずにはじめから海外向けゲームを作る方が楽かも知れません。

参考サイト

FlashGameLicense.com
http://www.flashgamelicense.com
Making Money from Flash Games(mochimedia)
http://wiki.mochimedia.com/Making%C2%A0Money-from-Flash-Games
Flash Game Monetization: Making Money the Pain Free Way(mochimedia)
http://mochiland.com/articles/flash-game-monetization-making-money-the-pain-free-way
Kongregate
http://www.kongregate.com/
NewGrounds
http://www.newgrounds.com/

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