日本のFlashゲームについての一考察

日本と海外のFlashゲームについての考察です。

注意:ここに書いたことは個人的に調べた事実に基づいています。中には勘違いなどもあるかも知れません。鵜呑みにせずできるだけご自身で調べてみてください。また、この内容からなんらかの不利益があってもnjfは一切関知しません。またコメントがあってもそれに返信することはありません。

以前の記事(海外のFlashゲーム事情)でなぜ国内ではPCのFlashゲームに海外のようなシステムが存在せず、日本では海外のようにFlashゲームが流行っていないかについて記事にするかも知れないと書いていたので、ここで私なりの説明します。

市場

英語を母国語としている、および英語の通じるインターネットユーザーの数は日本語のそれよりも多いので、市場が海外のほうが大きく、利益が出やすいということがまず挙げられるかと思います。さらに海外のゲームプレイヤーは国内に比べて年齢層が高く、課金などで利益を得やすいということもあります。ちなみに私の知るいくつかのリサーチでは、海外のオンラインゲームのプレイヤーの平均年齢はたいてい30代後半かそれ以上ですが、国内だと20代半ばぐらいになりかなりの差があります。これはオンラインゲームの年齢層でありFlashのカジュアルゲームのそれではありませんが、おそらく同じようなことがカジュアルゲームにも言えると思われます。実際、海外のFlashゲームの多くは過激な表現や風刺的なものを含んでおり、少し年齢が高めのプレイヤーをターゲットにしている事がうかがえます。

また国内では課金が容易な携帯Flashゲームが大きな市場となっており、そちらに技術者が流れてしまっていることも大きな原因でしょう。国内の、いわゆるガラパゴス携帯などで使われるFlashゲームとPC上のFlashゲームは、どちらも同じFlashですがプログラム言語仕様や機能は大きく異なります。そのため携帯Flashゲームの技術者がPCのFlashゲームのクォリティの高いものを作るのは敷居の高いことでしょう。面倒な上に利益の上がらないPCゲームをわざわざ作る人が減るのは当然です。

産業構造

海外のFlashゲームブームを支えている、ゲーム内広告やスポンサーシップ、そしてゲームサイトの母体はほとんどがこの4、5年以内にできたベンチャー企業です。またFlashゲームを作っているベンチャー企業もあります。つまりFlashゲームのブームに合わせてかなりの数の企業が立ち上げられたわけです。日本で同じようにベンチャー企業がいくつも相互補完するような形で立ち上がるなどということがあるかというと、なかなか難しいでしょう。国内には海外のような投機的な投資家は少ないですし、ベンチャーキャピタルもあることはありますが、結局目新しい事業にはあまり投資せず、アメリカなどの物に比べれば役立っていないとの評価もあるくらいのものです。国内の資金の多くは銀行から出るわけですが、バブルで痛い目にあった彼らがベンチャー企業へ投資することは少ないでしょう。実際日本でも数年前にFlashのブームがありましたが、それに合わせて起業した例はさほど多くはなかったように思えます。

とはいえ、国内で起業が活発に行われないということではないです。例えばソーシャルゲームブームなどに合わせて、ゲーム制作会社が幾つも作られています。ですが、これらの会社はいわば大手のプラットフォーマーの下請けとして、その会社から投資を受けているような場合が多いです。資本的にも独立した会社が立ち上がり、互いにニーズを埋めあうような海外のFlashゲームの関連会社と比べると状況は異なります。

また国内の企業向けのWeb開発体制は、Flashのゲーム製作者の創造性などをあまり生かせない様になっています。企業向けサイトのよくある開発体制はWebをつくろうとする企業があり、その下に広告代理店、さらに下にWeb制作会社、さらにその下にシステム関連会社やデザイン会社というような構造になっています。フリーランスのFlash開発者などもこのあたりか、このさらに下になります。Flashゲームを専門としていて広告代理店を通さずに製作者に直接仕事を依頼するような企業も無いわけではないでしょうが、少数ですし、それらも東京に集中しています。遙か上の方で企画や予算や期日が決められ、Flashの開発者は単にそれに従うだけとなる場合もよくあります。もちろん、下に行けば行くほど得られる報酬も下がります。フリーで仕事を受けてたまに自作ゲームなど作って「ゲームクリエイター」などと言われても実質は最底辺の下請けです。生活に追われ創造性を削りながら言われたものを作る、そんな中で時間を割いてオリジナルゲームをさらにつくるのは難しいことです。

最近はなくなりましたが以前はFlashゲームのコンテストなどがあり、「オリジナリティを高く評価して才能を発掘する」などと謳っておきながら受賞者はこのような産業構造の下で仕事を受けることになるのですからなかなか皮肉な物です。コンテスト自身が廃れるのも宜なるかなと思います。

技術者

日本のソフトウエア技術者は一般に海外と比べて生産性が低いというわけではありません。実際生産性や品質については世界でもトップクラスと言われています(下記文献「ソフトウエア企業の競争戦略」参照)。しかし、自分たちの権利やビジネスなどに対する考え方が大きく違います。

海外にはFlashゲームのスポンサーを探すFlashGameLicence.comというサイトがあります。このサイトはもともとはフラッシュゲーム製作者の幾人かが自分たちのスポンサー探しについてのノウハウを記したサイト(現在はなくなりました)があり、それをより効率的にかつビジネスとして成立させるようにしたものです。彼らがなぜそのような事をしたのかといえば、それまでの下請けのようなゲーム制作ではなく、より製作者の権利と利益につながる方法を模索したからです。つまり海外では一般的となっているFlashゲームのスポンサーシップは個人の製作者が自分たちの為に作り上げてきたものです。海外の製作者は国内に比べて自分たちの作ったものに対する権利というものに敏感なように思えます。最近でも例えばこの記事(Where Credit Is Due)のように、たとえ企業などからの依頼であっても、Flashゲームの中に個人名を入れたクレジットを表示すべきだという主張がされています。国内でこのような動きを見たことはありません。上で述べたようにFlash製作者はたいていは下請けの立場であり、下手に何かを主張すると仕事を失うかもしれないという恐怖のためかもしれません。

また、海外では色々なFlashゲームのコミュニティサイトで技術的なことからビジネスに関係したことまで議論がなされています。一方で国内ではそのようなサイトはありません。Flashゲーム製作者同士のつながりもせいぜい集まって飲み会をするぐらいです。それらは遠方にいる人など都合で出られなければ終わりというような交流で、内容も集合知として後に残ることもありません。お金や権利関係の話をすることも「いやらしい」と思われるのが嫌なのか製作者が何らかの形で書いたりすることはまれです。具体的に金額まで挙げてビジネスとして述べているのは国内ではせいぜいこのサイトぐらいではないでしょうか。そのような状況でFlashゲームに関連したビジネスを立ち上げようと製作者同士が協力したりするようなことはそうは起こりえないでしょう。単純に1作品製作するコラボレーションすらままならないように思えます。

このような国内の状況では、海外のようなクォリティの高いゲームを製作したり、それをビジネスとして昇華するようなことは難しいでしょう。

また教育の不備も技術者にとって不利に働いているかも知れません。ヨーロッパではプログラミングをアカデミックに、アメリカはアカデミックとビジネス両面にとらえる風潮が強いと言われていますが、日本ではほぼビジネスのみであまり学問としてはプログラミングやソフトウエア開発の人気はないようです。大学教育の中でコンピューターを扱う機会も少なく、学部や研究機関も少ないです。実際、私の大学時代の指導教官が海外から日本に戻ったときに学生のコンピューターリテラシーの低さに驚いていた事を良く覚えています。日本ではソフトウエア開発の技術はほぼ企業に入ってからのOJT(とは名ばかりの実際は徒弟制度もしくは行き当たりばったりな何か)によって与えられるため、実務に役に立つ知識はあってもプログラムの理論などは知らない人が大部分です。大規模な開発していてもオブジェクト指向が何か知らないような人は沢山います。そういう人がたとえば余暇に知らない言語でゲームのAIを作ると言ってもやはり敷居は高いのではないでしょうか。要は仕事のクオリティは高くてもその技術は他に応用が利かないのです。

金融関連の規制

最近貸金法の改正によって改善されましたが、国内では送金の手段が乏しく、ゲーム制作の送金やゲームの課金などのシステムを作るのが難しかったというのも海外と同様なシステムを作る上での足かせであったかもしれません。ただし、今ではPaypalも使えますし、そもそもこの壁に行き当たるまで話を進めたベンチャー企業があったのかも不透明なのでなんともいません。

文化

これらの違いはおそらく海外(特にアメリカ)と日本との文化の差から生まれていると思われます。ベネディクトは「菊と刀」の中で、アメリカなどは子供に対しては制限を大きくし、大人になると個人の裁量で行動することが認められますが、日本だと子供の行動は大目に見られて大人になると節度ある行動を要求されると指摘しています。ゲームなども日本では子供のものと思われ、大人はだんだんとやらなくなっていくと考えられがちですが、海外では大人の娯楽としても受け入れられています。このことや、単純に先進国以外では子供にPCを買い与える経済力がないことが、国内と国外のFlashゲームの年齢層に差を生んでいると思われます。

産業構造についても文化的なものが関係しているでしょう。特に、江戸時代に強化されていった「上に従う」という(日本的)儒教的文化が、Webやソフトウエア開発のピラミッド型の階層構造を必要以上に強めてしまっていることは否めません。製作者も連帯して上に権利などを主張せず、お金の話などもしないことが「奥ゆかしい」と言われ美徳とされるため、なかなか声があげづらくなってしまっています。このような文化が悪いと言っているわけではありません。江戸幕府が始まるまでの下克上の時代から、一転して日本人同士では大きな流血を見ない数百年の安定を得られたのです。戦後の高度成長期の組織構造を支え、現在でも海外に比べて雇用が比較的に安定しているのもこのシステムによるところも大きいでしょう。ただ、ひきかえに競争力が大きくそがれてしまったのでインターネットのような自由競争の世界では不利になっています。

また、日本の閉鎖性からくる、競争力のない産業を守るために有形無形にさまざまな規制を行っていることもアメリカなどとの違いでしょう。司馬遼太郎が「覇王の家」のあとがきで江戸時代に始まる閉鎖的な国民性についてこのように言っています。(「かれ」とは徳川家康のことです)

—引用ここから
 「かれがその基礎を堅牢に築いて二百七十年つづかせた江戸時代というのは、むろん功罪半ばする。文化文政時代という特異な文化や、教養の普及という点で代表されるように功も大きかったかもしれないが、天文年間から慶長年間にかけての日本人にくらべ、同民族と思えぬほどに民族的性格が矮小化され、奇形化されたという点では、罪の方に入るかもしれない。室町末期に日本を洗った大航海時代の潮流から日本をとざし、さらにキリスト教を禁圧するにいたる徳川期というのは、日本に特殊な文化を産ませる条件をつくったが、同時に世界の普遍性というものに理解のとどきにくい民族性をつくらせ、昭和期になってもなおその根をのこしているという不幸もつくった。」
 
 —引用終わり

この閉鎖性は昭和のみならず現在も残っています。例を挙げるなら農業など国内産業を守るための高い関税、ほとんど外国人がなることのない弁護士、同じく語学教師以外に外国人がなることのすくない大学の教授職、認められにくい移民、そして(だんだんと緩くなっていますが)規制が多くやはり海外からの参入を阻んだり国内でも新規事業を立ち上げづらい金融システムなどです。この金融規制はFlashゲームの小額課金にも影を落としています。

他には物質的なものにはお金を払うが、技術や努力やアイデアといった形のないものに対しては出し渋る考え方も欧米とは大きく違います。わかりやすく言えばサービスに対してチップを払うのが当然の社会と、戦争中死ねと命令して、された方も従うほど人的資源を軽視した人たちの薫陶を受けた世代が年功序列というシステムに乗って上層にいる社会の差です。人気ソーシャルゲームなどで課金が始まったときの、ヒステリックにも思える一部ユーザーの反応などは記憶に新しいところです。このことは直接的な課金どころか広告までいやがるプレイヤーが多い一方で、あまりお金を出している感覚が少なく、面倒な課金システムもキャリアが肩代わりしてくれる携帯電話にゲームコンテンツが集中されるという結果を生み出しました。

今後

今後このような状況が変化してPC上のFlashゲームが海外のように流行ることがあるかというと、おそらくしばらくは無理でしょう。上で述べたように、この差は社会や文化というものに深く根ざしているからです。もちろん携帯Flashゲームについては、今後スマートフォンの拡大によって事情が大きく変わってくる可能性はあります。また、ソーシャルゲームもなにかを変えるかもしれません。しかし、海外のように個人製作者が活発に各々PC上のFlashゲームを作っていくような状況になるというような兆しも理由も今のところ見当たりません。

良否

このような状況は良いことなのでしょうか、そうではないのでしょうか?

開発者としての私が思うには国内でFlashゲームが流行らないことに対して、一抹の寂しさがありますがただそれだけのこと、というだけです。使っているPCのCPUもOSもソフトもすべて海外のものであるのに、いまさら国内がどう、などと言うのも空々しく感じます。「だから日本は駄目なんだ」的な論旨にも飽きました。国内で同じシステムなどという人もいるかもしれませんが、すでに海外にあるのに同じものが必要とも思いません。社会やら文化といった個人では対応しきれない問題に対するよりも、すでにあるのならそれを使えばよいだけです。

日本の閉鎖性が悪いともアメリカのような自由な競争が良いなどとも言えないでしょう。自由な競争というのは往々にして、すでに勝っているものがさらに勝つだけの公平なものとはいいがたいシステムです。一部の国が「グローバリゼーション」を声高に叫ぶのは、単にそうすれば自分たちが勝てるからです。例えばもし日米貿易摩擦が問題とされていたころに農業の自由化や金融の規制緩和をしていれば、それらの分野での国内産業は立ち直れないほどの大きな打撃を受けていたでしょう。今のところ日本のFlashゲームは言葉の壁と採算性の悪さで逆に守られているという状況です。もしそれらがなければ国内のFlashゲームは海外のもので席巻されてしまうかもしれません。国内でのFlashゲームの状況の悪さは日本のFlashゲーム製作者を守ってくれているとも言えます。

しかし、ゲームのプレイヤーにとってはあまり良いことではないかもしれません。すべてのエンターテインメント作品に言えることですが、それぞれの文化にはそれぞれの嗜好があり、それを知っている同じ文化的土壌を持つ製作者の作ったものの方が楽しめることが多いからです。今のようにクオリティ高いFlashゲームを遊ぶには海外の物になるという状況はゲームプレイヤーにとっては残念なことかもしれません。

技術の研鑽と言う面でもあまり良くはないかも知れません。海外のFlashゲーム作者も専業でやっている人は少なく多くは本来の仕事を持っています。ゲーム制作での技術が仕事の上でもおそらくは生かされているでしょう。企業の作るゲームコンテンツでも技術の差が広がってしまう、もしくはすでにひらいているかも知れません。

日本は今のところはたしかに海外のFlashゲームが日本語化され、一般に遊ばれるということがあまりありませんが、将来的にはわかりません。日本もインターネットの中では大きなマーケットです。今のところユーザーが多い英語圏や中国語圏のターゲットとしたゲームが作られていますが、そちらの成長が緩やかになれば日本にも海外のゲームが入ってくるでしょう。その時に競争力のない日本のFlashゲームが生き残れるかどうかわかりません。他の産業の規制と同様に考えるなら守られている間に競争力をつけるのが本道ですが、多くの場合、守られているものはますます競争力を失います。一つの産業の可能性が消えるというのはあまり良いことではないかも知れません。しかし、そもそも流行っていない上に流行る気配もないのでどうしょうもないという気もします。

出来ること

それでも日本でもFlashゲームがもっと作られて欲しいと考えるなら個々人で以下のようなことができると思います。

製作者

まずはゲームを作りましょう。それが製作者としてのあなたの存在意義であり定義です。そしてできるだけクオリティの高いものを作ってできれば海外でも公開しましょう。ゲームで使われる程度の英語はさほど難しくはありません。(ただし、機械翻訳はたいていひどすぎて最悪の場合意味が通らなくなるので避けましょう。)また、なるべくユーザーからの評価を受けるようなシステムを用意しましょう。趣味や、そのゲームによって他の仕事を得る営業の一環としてではなく、自分の作ったもので直接お金にするように考えるべきです。好きに作ってもそれをお金に変えることができず、結局依頼でゲームを作るのなら、オリジナルゲームを作ることによってオリジナルゲーム以外を作るという自己矛盾に陥ります。そうではなく、作ったものでお金を得てさらにそれを元手に次に進めるような、永続的な開発を目標にしましょう。とはいえ、もちろん生活していかなければならないので、会社の仕事や委託業務の方も手を抜かないようにしましょう。委託業務で安定性を、オリジナルゲームで自分の技術の研鑽やあわよくば一攫千金を目指すといった自分なりのバランスを持つべきでしょう。

ホームページ制作者

ゲームサイトを作りましょう。紹介サイトでもいいですが、出来ればゲームを自分のサイトにホストしましょう。紹介サイトだと作るのは楽ですが、トラフィックはどんどん海外に逃げていってしまいます。mochi adsFlashGameDistribution.comには無料でホストできるゲームが沢山あります。レイアウトで横幅が800pxぐらい必要ということにさえ気をつければ、レンタルのブログサービスでも簡単にゲームサイトを作れます。さらに技術があるならゲームのランキングやコメント、ユーザー登録などの機能を入れて本格的なゲームサイトにしましょう。ゲームサイトは結構存在する上にFlashはSEOに弱いのでそのままではあまりアクセスを見込めませんから、詳しいゲーム説明を入れるなどなんらかの差別化を行いましょう。最終的には海外のサイトのようにゲーム製作者のスポンサーとなってゲームに自分のサイトのロゴをいれられるまでにしましょう。

ゲームプレイヤー

まずはFlashゲームをプレイしましょう。そして評価などがある場合はそれを使ってフィードバックしましょう。インターネットのような玉石混淆の状況では、質の良い評価システムは非常に重要です。評価することによって良いゲームが生き残りそうでない物は淘汰されます。

広告や課金システムについて過剰に反応しないようにしましょう。制作者の収入が減ればその分ゲームの制作が滞り、結局おもしろいゲームがプレイできないという、あなたにとっても悪い結果となって帰ってきます。

参考文献

参考サイト

FlashGameLicense.com
http://www.flashgamelicense.com
Mochimedia
http://mochimedia.com/

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One Comment

  1. 匿名 より:

    http://game-dash.jp/about/game-sponsorship
    あ・・・あにきこんなんみつけやしたぜ!

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